今回の新型コロナウイルス感染は、日本の保健医療体制が今のままでいいのかを私たちに問いかけています。
医療現場にも効率性、採算性ばかりが強調される政治の下、赤字の病院は統廃合が推し進められ、その結果、特に地方を中心に病院は住民にとって遠い所にあるものとなってきました。9割以上病床が埋まらないと採算が取れず、余裕のない病院経営が強いられた結果、新型コロナウイルス感染者の治療もままならない状況や院内感染が生まれました。
尼崎市では幸いクラスターは今の所発生していませんが、今後どうなるか予断は許されません。市立病院を持たない尼崎市が、今後どこを核にした新型インフルエンザ等医療対策を進めて行けばいいのかが、今まさに問われていると思います。この問題意識で、尼崎市の地域保健医療全体について考えてみたいと思います。
尼崎市の地域保健医療の取組み方向は、「地域いきいき健康プランあまがさき」に示されています。現在2018年から22年の5か年計画として第3次プランが進められている所ですが、これは地域保健活動を推進していくための羅針盤ともなる中長期計画であると位置付けられています。
ここには、2014年改訂された「尼崎市新型インフルエンザ等対策行動計画」に基いた新型インフルエンザ等医療対策も盛り込まれており、これまでの本市の医療対策はこの行動計画に基づいて進められてきたと思います。
新型コロナウイルス感染症の国内症例の発生で、2020年2月1日付けで厚労省から各都道府県に対し「帰国者・接触者外来」の設置が求められました。更に4月15日には、対応能力の向上策が求められました。多くの自治体が公立病院を中心に感染症指定医療機関いわゆる「帰国者・接触者外来」の整備に着手しましたが、尼崎市には市立病院がありません。全て地域医療機関に要請しなければなりません。
Q、「帰国者・接触者外来」や「発熱外来」の設置について、地域医療機関の受け止めはどうだったのでしょうか。経過を説明してください。
答弁
本市においては、厚生労働省が2月1日付けで都道府県等に「帰国者・接触者外来」の設置を求めたことを受け、市内24病院に外来設置について協力を依頼したところ、人員及び設備体制等の問題もあり、当初2か所からの協力にとどまっていましたが、3月末には、合計3か所から協力を得ることができました。しかしながら、4月初旬に感染患者が増加し始めたこともあり、本市医師会の協力のもと、4月16日に市直営の臨時診療所を立ち上げるなど外来機能の強化に取り組んだことから、現在、5か所の「帰国者・接触者外来」において、新型コロナウイルスの感染が疑われる方の診察、検体採取を行っています。以上
また、5月臨時議会の健康福祉委員会で、医務監は「コロナウイルスの医療対策については問題点がいろいろと残っていると思う」と語られています。
Q、 どんな問題点があるのか、具体的にお示しください。
答弁
当初、医療従事者への感染不安や導線確保の問題により診療に繋がらないケースもありましたオンラインや電話による診療が進んだことなどにより感染疑いのある方を適切に医療に繋げることができております。また、肺炎が疑われる方の救急搬送の受入調整に苦慮したケースもありましたが現時点では速やかにPCR検査を実施することで病院の協力が得られ、スムーズな受入に繋がっています。他都市において、無症状の方が病院内で感染を広げるといった問題も起きており、今後は無症状病原体保有者による院内感染防止のための対応が課題と考えております。以上
以上で、1問目を終わります。2問目は、1問1答で行います。
―第二登壇―
国は、保健所に「帰国者・接触者相談センター」を置き、指定医療機関につなぐ体制づくりを進めるものでしたが、圧倒的に「相談センター」や指定医療機関が足らず、また、入院隔離は中等から重症者とされたことから、感染防止は後手後手の対応となりました。全国各地で「相談センター」を介さず、医師の判断でPCR検査につなぐ「PCR検査センター」が必要に迫られて設置されていきました。
Q、 尼崎市では4月16日から医師会の協力を得て直営の「帰国者・接触者外来」をスタートさせました。医師会とどんなやり取りをする中で、直営診療所を開設することになったのですか。
答弁
先ほども申し上げましたとおり、市直営の臨時診療所は、感染疑いの患者が増加する中、4月16日に開設したものです。本外来は、医師が新型コロナウイルス感染症を疑った患者を、迅速にPCR検査に繋げていく仕組みとして、医師会の協力を得た取り組みであり、開設にあたりましては、医師をはじめ従事者の感染リスクを回避できるよう、防護体制について十分に協議を行ったところです。以上
再び緊急事態宣言という事態を避けるために、第2波へのしっかりした備えが必要です。
Q、 直営の外来を今後常設化すべきだと考えますがいかがですか。
答弁
現在、第2波に備え、検査体制の充実を検討しているところであり、直営外来の常設化につきましては、今後’の感染状況を踏まえ、判断していきたいと考えております。以上
次に保健所機能についてお聞きしていきます。
私は、ここ25年余りの衛生研究所と保健所保健師の体制を調べてみました。
まず衛生研究所ですが、現在兵庫県下に加古川・神戸・姫路・尼崎と4カ所しかなく、尼崎市民だけでなく、一定阪神エリアに貢献すべき役割が求められていると思います。
1993年ハーティ21が現在地に竣工した時に保健所内からここに移設し、今に至っています。今回の新型コロナウイルス感染対策でPCR検査を一手に引き受けた感染症制御担当は3名、うち検査技師は1名です。また、衛生研究所全体の職員体制は19名、うち会計年度職員が5名です。25年余りの経過を見ると職員総数は18から20名とあまり変わりませんが、2007年以降嘱託や再任用職員が3分の1から2分の1を占める状況が続いています。検査技師については25年前の6名から現在2名と3分の1に減少しています。
本来衛生研究所とは、地域における科学的・技術的中核機関として、その専門性を活用した地域保健についての総合的な調査・研究を行うとともに、地域保健関係者に研修を行う機関です。尼崎市立衛生研究所報第45号の論文によれば、高い専門性を維持向上させるのに調査研究は必要不可欠ですが、実際は年間予算に調査研究費は付かず、人員も必要な機器や試薬の整備もままならない状況であることが記載されています。
Q、 このような状態で、近年、本来業務は全うできてきましたか。
答弁
人員につきましては、ご指摘のとおり、一部再任用や嘱託に置き換わり、検査技師が減少している状況ではございますが、環境衛生職が高い技術力をもって対応しており、また再任用等を配置することにより、多くの職員に技術伝承を行うことができる側面もあり、業務に支障をきたすものではございません。一方、研究に必要な費用等につきましても、今後の課題として挙げていますが、その解決に向けた取り組みを模索しながら、様々な形で研究に取り組むことで、職員のモチベーションを上げ、業務に取り組んでおります。以上
今回、PCR検査体制を補強するために、研究所内で3名、保健所から1名、経済環境局から1名経験者を配置してあたりました。これによって8人による3チーム体制が可能となり、激務をなんとか耐えることができたと聞きます。今後、第2波に備えた体制作りが求められるところだと思います。兵庫県はPCR検査の1日処理能力の確保を、5月21日に1000件、また、6月5日には6月補正予算案で更に500件増やし1日1500件を目指すとしています。
Q、 県が示す目標に対し、尼崎市立衛生研究所の割り当ては何件ですか。それは、今の体制で実施可能ですか。
答弁
兵庫県の目指す1日1500件という件数には、本市が対応可能な検査件数の44件が含まれておりますが、割り当てられたものではありません。以上
Q、今後も3チーム体制が維持できますか。
答弁
感染者数の増加時には、他部署からの応援による3チーム体制をとっておりましたが、現在は感染状況が落ち着いた状況であります。現在、PCR検査数を増やすため、機器導入も進めており、今後の感染状況に応じ、必要な体制を整備し、機動的に対応してまいります。’以上
5月28日共産党議員団は衛生研究所を視察し、現場の専門性、そこから生じる責任感・緊張感を肌で感じ、同時に検査機器の老朽化を見ました。
衛生研究所の人員や設備の拡充を強く求めます。
次に保健師の役割についてお聞きします。
保健師は数の上では25年前より微増傾向ですが、4保健所2保健所支所体制から1999年に1保健所6保健センターへ、2006年保健センターを廃止し6支所に地域保健担当、2018年1月地域保健担当を廃止し南北保健福祉センターへと、行革や政策的課題の変化によってその体制は大きく変わってきました。
第3次いきいきプランによれば、保健師の地区担当制を基本に個別支援から地域支援につなげていく活動を目指していると示されています。しかし、市民の受け止めは違います。6行政区から保健師の活動拠点が無くなり、通常業務が母子保健や健康増進、がん予防などに細分化され、昔の「困ったときは保健師さんに相談する、地域にいつも保健師さんの姿があった」と知る多くの市民からは「保健師が見えなくなった、遠くなった」と聞いています。
今回の新型コロナウイルス感染対策で、保健所に「帰国者・接触者相談センター」が設置され、市民や医療機関、関係機関からの相談や調整、感染者の感染経路の確認などに最前線であたりました。
Q、 コロナウイルス感染対策では保健師何名の体制で対応されていますか。具体的な仕事の中身も教えて下さい。
答弁
新型コロナウイルス感染症対策では、電話相談業務にあたる感染症対策担当の保健師10人に加え、他部署から適宜応援を求めており、5月からは新たに雇用したOB保健師2人が従事しています。また、疫学調査業務には、最大2班体制で5人の保健師が従事し、更に、市臨時診療所に関する業務には、3人の保健師が従事しています。以上
Q、今回の対応では、南北保健福祉センターの保健師が乳幼児健診がコロナのため中止となったので応援に入ったと聞きます。急場はしのげたかも知れませんが、第2波に備えどのような準備をしていますか。
答弁
新型コロナウイルス感染症対策において、保健師の役割は、健康相談業務だけでなく、疫学調査業務や検体採取補助業務など多岐にわたっております。今回は、事業が中止となった保健師に応援を求めることで対応してまいりましたが、今後、起こり得る第2波に備え、発生段階に応じた業務継続計画を事前に定めることで、感染症対策に必要な保健師の確保に努めてまいります。以上
保健所が感染拡大を防ぐための役割を果たすためには、多くの人手が必要です。不安を抱えて防衛的になっている人や家族の不安を軽減し、感染経過の真実を語ってもらえるようにすることが求められます。そのためには、基本的に地域住民から保健所や保健師が信頼されることが必要です。「保健師が見えない」では話になりません。日本共産党議員団は6支所の廃止、地域保健担当の廃止は、地域から保健師がいなくなる地域保健の後退につながると反対しました。コロナで、改めてくらしの中で感染予防に留意することも課題になっています。
今こそ、保健師が地域で市民のくらしの中で活動し、市民の健康を守る活動がしっかりとできる体制をつくるべきです。そのための保健師増員を求めます。
次に、近畿中央病院についてお聞きします。
今年4月1日付で近畿中央病院と伊丹市立病院が統合に関する基本協定書を締結しました。これによれば、2025年に現在の伊丹市民病院の場所に新病院が造られ、近畿中央病院は廃止となります。近畿中央病院は塚口や富松など北部の市民が安心して入院もできる、また出産もできる病院として地域住民は頼りにしてきた病院です。年間6万人の尼崎市民が利用していることがその証拠です。ここがなくなれば尼崎の北部地域に医療空白ができてしまいます。
Q、 市は、2025年近畿中央病院が廃止されることについて市民への影響をどのようにとらえていますか。
答弁
近畿中央病院につきましては、年間約6万人の市民の方々が外来受診しており、市立伊丹病院との統合に伴い、市民の方々に少なからず、影響はあるものと思われます。一方、今回の両病院の統合につきましては、兵庫県の医療構想に沿ったものであり、統合により、これまで阪神北圏域で課題であった、高度急性期医療を担う基幹病院の設置に加え、必要な医師や看護師の確保など、持続可能な病院運営を目指されていることから、地域住民に対しても、更なる良質な医療を提供することができるものと考えております。以上
新型インフルエンザ等医療対策を前に進めようとする時、その前提になるのは、安心して医療を受けられる地域医療の体制があることだと思います。この点で近畿中央病院が2025年廃院になり、ベット数が200床減少するのは問題です。
昨年市民から近畿中央病院の存続を求める陳情が出され、健康福祉員会で審議されました。市は、伊丹市と近畿中央病院の問題、阪神北圏域の問題、ベット数の確保もそこで話し合われるだろうと、まるで対岸の火といった態度でした。
Q、 県の保健医療計画では、すでに阪神南と北は統合し阪神圏域になっていることはご存知ですか。
答弁
阪神南と北が統合し、阪神圏域となっていることは承知しております。なお、今回統合された阪神北圏域は、計画の中で別途、準保健医療圏域として設定されており、当該圏域内での地域医療の提供体制整備の取組が進められているところです。以上
近畿中央病院がなくなることについて、周辺住民の多くはまだ知りません。市は、この問題でもっと責任ある態度を示すべきです。
Q、 廃院によって200床ベット数が削減します。このことで尼崎北部の医療提供体制にどのような影響が出てくるのか、つまり何人が入院できなくなるのか、何人がお産ができなくなるのかなど具体的に数値で示せますか。
答弁
両病院の統合再編に伴う、必要な病床数については、既存患者の入院者数に加え、新機能の追加や将来推計等も加味し、新たな病床数を設定されているとのことであり、入院やお産にあたっても、医療提供体制への影響はないものと考えております。以上
Q、 近畿中央病院に対して、周辺住民に廃院になることについて説明責任を果たすよう働きかけるべきだと思いますがいかがですか。
答弁
近畿中央病院では、定期的に地域住民との話し合いの場を持たれており、問い合わせなどにも丁寧に対応されていると聞いております。本市としましても、今回の統合に伴う市民の意見を近畿中央病院や伊丹市、県に、必要に応じて伝えてまいります。以上
最初にも紹介しましたが、「第3次地域いきいき健康プランあまがさき」は、地域保健活動を推進していくための羅針盤ともなる中長期計画の位置づけだと市は言っています。しかし、ここに市内全体あるいは各地域の地域医療確保の政策が全く書かれていません。全て県任せ、民間医療機関任せで、市として市民の命・健康を守る政策が描けない、市立病院を持たない尼崎市の弱点だと思います。これでは、コロナ後の安心の地域医療環境は整備されません。
2点について要望します。
一つは、近畿中央病院と伊丹市の基本協定書の第9条2項には、「近畿中央病院の跡地の活用について近畿中央病院が地域医療に配慮しながら検討するもの」と記載されています。伊丹市とも協議し、尼崎北部に医療空白をつくらないために病院跡地には入院できる医療機関の誘致を近畿中央病院に対し求めること。
二つ目は、尼崎市医師会をはじめ各医療関係団体と今まで以上に協議をすすめ、地域医療確保の政策を充実すること。
これで質問を終わります。ありがとうございました。