2012年9月議会一般質問 松村ヤス子:生活保護制度は、命を守る最後の砦

2012年9月議会 一般質問

2012年9月12日 日本共産党議員団 松村ヤス子

生活保護制度は、命を守る最後の砦

次に生活保護制度についてお尋ねします。

生活保護制度は、命を守る最後の砦、最低生活を保障するきわめて重要な制度です。戦後、国民主権、生きる権利、教育を受ける権利、働く権利などを保障する新しい憲法が制定されました。しかし、これら、憲法上の権利が、だんだんおかしな方向に進められつつあることに、今、私は、大きな危惧を抱いています。最低限度の生活保障の制度がおかしくなれば、それは、生活保護利用者だけの問題ではなく、社会全体の質が悪くなり、社会発展のレベルが問われ、圧倒的多くの人々のしあわせを壊しかねないと思っています。
そういう大事な制度だけに、私は、こだわらねばとの思いを強くし、質問を重ねているのです。

5月にお笑いタレントの母親が生活保護を受給していると報道されて以来、生活保護バッシングが社会に大々的に広められてきました。

これに関連して、6月議会で、親族の扶養については、

①生活保護法上、扶養義務者の扶養は、保護利用の要件とはされていないこと

②成人に達した子どもの親に対する扶養義務は、「その者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせた上で、余裕があれば援助する義務」にすぎないこと

③しかも、扶養の程度、内容は、あくまでも話し合い、合意をもととするものであること

④扶養の程度、内容が、扶養義務者の「社会的地位にふさわしい生活を成り立たせる」ことを前提としても、なお著しく少ないと判断される場合には、福祉事務所が、家庭裁判所に扶養義務者の扶養を求める手続きが、生活保護法77条に定められていること

の4点にそって運用しているかを確認する質問をしました。

答弁は、厚生労働事務次官通知の規定どおり、実施しており、私が確認を求めた4点にも沿っていると考える。とのものでした。

 

一方、橋下徹大阪市長は、選挙で選ばれた市長は、何をするかを、白紙委任されるのは当然、職員は市民の言うことではなく、市長のいうことを聞けとの態度です。それとあわせて、生活保護制度や公務員へのバッシングもひどいものであり、ファシズム的で非常に危険なものを感じています。

尼崎市もその影響を受けてのことかもしれませんが、7月25日、生活保護担当課から、生活保護受給世帯における「扶養届」の状況調べについて新聞発表をするとの報告を受けました。扶養義務者から扶養届の提出があったもののうち、2親等以内、つまり、両親・子・兄弟姉妹・祖父母・及び子・兄弟姉妹の配偶者のうち、尼崎市の公務員及び世帯員合算収入が1千万円以上の世帯を対象にした調査結果です。担当職員さんが、説明にこられたさい、「市職員だからといっても、若い職員では、収入が少ない。公務員かどうかでなく、収入が高いかどうかで考えるならともかくも・・・」とつぶやく声が聞こえました。調査する担当課自身が疑問を持ちながらの公務員も含めての扶養調査だったように感じられました。

質問

市がおこなった、生活保護受給世帯における「扶養届」の状況調べについて、うかがいます。
この調査をすることは、市のどの組織で、決定されたのか。

答弁

この調査については、生活保護の実施にかかる関連業務の一環として、福祉事務所において調べることにしたものである。

質問

市職員の親族の生活保護受給者調査は、何を目的として行ったのか。また、公務員だからと、なぜ、一律に調査対象にしたのか。

答弁

人気タレントの親族への扶養義務に関する報道や、東大阪市の生活保護の扶養義務者の中に市職員が含まれていたことなどの報道を受け、扶養届をもとに内部的に調査を行ったものである。

この調査では、身分の安定した公務員とともに、一定の経済力のある扶養義務者、たとえば、世帯合算で年収1千万円以上の世帯を抽出することで、今後の扶養義務の履行に生かすため、状況把握を行ったものである。

質問

公表の必要性があると判断した理由はなにか。

答弁

東大阪市や大阪市などの近隣自治体の報道を背景に、本市に対しても複数の報道機関から取材があったため、社会的な関心が高いと判断し、発表したものである。

質問

保護受給者の2親等以内の親族が公務員である場合と公務員でない場合とで、扶養に対する考え方が異なるのか。

答弁

公務員であるか否かによって、扶養に対する考え方が異なるものではない。

質問

この調査ののち、市は保護利用者と2親等以内の親族にどのような新たな対応をしたのか。また、しようと考えているのか。

答弁

本市の調査では、扶養義務者からの費用徴収を規定視した生活保護法第77条の適用を検討するような対象事例はなかった。 これまで、扶養義務者に対する扶養能力の調査については、国の通知に基づき、先ずは当事者間での協議を優先して行っており、今後も同様に対応していく。

ところで、市では、以前から扶養義務者から源泉徴収表の提出を求めているとのことです。扶養義務者と生活保護利用者とは別世帯であり、なかには、いろんな事情を抱えていることもあるでしょう。

6月議会では、扶養義務は、直ちに法律に訴えて法律上の問題として取り運ぶことは、性質上なるべく避けることが望ましいので、努めて、円満理に履行させることを本旨とするとの答弁でした。この答弁が意味するところは、絶対に強制力を働かせてはならないということだと受け止めています。

質問

源泉徴収表の提出を求めることは、「努めて円満理に履行させることを本旨とすることと規定されている」とは相容れないと思いますが、いかがですか。

答弁

扶養届に添付してもらう源泉徴収表の写しは、扶養義務者の所得から、扶養能力があるかどうかを把握する資料の一つとして求めているものである。

また、扶養届の提出を求める際にも、生活保護の申請にあたり、申請者から扶養義務者の状況を聞いたうえで提出を求めるなど一定の配慮を行っている。

したがって、源泉徴収表の提出と円満な扶養義務の履行が相容れないようなものとは考えていない。

質問

源泉徴収票の提出を求める法的根拠があるのか。

答弁

扶養義務者の資産及び収入の状況については、生活保護法第29条に基づき、福祉事務所が官公署等に調査できるとされている。

扶養義務の履行に当たっては、扶養義務者の扶養能力だけでなく、扶養する意思を有していることが必要となるため、調査という手段をとるのではなく、扶養届けにおいて、扶養の可否の申し出理由を補強する資料の一つとして、福祉事務所長の判断として源泉徴収票の提出を求めているものである。

質問

源泉徴収票の提出をしなければ、保護申請は却下されるのか。

答弁

源泉徴収票の提出がないことのみをもって、生活保護の申請を却下するというようなことは、ない。

同じ、7月25日には、中央社会保障推進協議会と全国生活と健康を守る連絡会が、生活保護の「不正受給」を口実とした扶養強要強化の中止を求める厚生労働省への申し入れと記者会見を行っています。厚生労働省が文書で回答したのではありませんが、当日交渉した団体の方の文責による回答内容がメーリングリストで送られてきました。

厚生労働省は、

①    生活保護の扶養義務の強要強化はしない

②    地方公務員に対する親族調査と扶養強要については、そういった調査が必要とは思わない。しかし、国として実施するなとは言えない。

③    扶養については基本的には現在の運用で行いたい。ただ、収入があるのに扶養義務を果たしていない例外的な人に、扶養が困難であることの証明義務を課すことや保護費の返還の仕組みづくりを生活保護全体の「見直し」の中で検討したい。最後のセーフティネットなので必要な人が受けられなくならないように、その一方、国民の理解が得られるようにしたい。

と回答したとのことです。

厚生労働省の回答の中で、「収入があるのに、扶養義務を果たしていない例外的な人に、扶養が困難であることの証明義務を課すことや保護費の返還の仕組みづくりを生活保護全体の「見直し」の中で検討したい」としているようですが、果たして、「扶養できないことの証明」は簡単にできるのでしょうか。

「証明義務を課す」となれば、たとえば、毎月2万円を援助している場合に、その2万円がぎりぎりの額であり、2万5千円や3万円は援助できないことを「証明せよ」ということになります。援助する側の収入と支出の明細・領収書を全部出せということになるのでしょうか。たとえ、すべて明らかにしたとしても、「扶養が困難である証明」など不可能だと思います。

質問

親族に「証明義務を課す」ことを求めるとすれば、親族関係をこじれさせることにつながると考えますが、いかがか。

答弁

国は、平成24年7月の「生活支援戦略」の中間まとめの中で。「保護を必要とする人が受けられなくなることのないよう留意しつつ、扶養可能な扶養義務者には、必要に応じて保護費の返還を求めることも含め、適切に扶養義務を果たしてもらうためのしくみを検討する」としているが、検討内容は明らかになっていない。したがって、現段階において、親族との関係をこじれさせることにつながるかどうかについては、答えることができないが、その後の精神的な支援などを含めて考えると、あくまでも、円満理に扶養義務の履行を求めることが肝要ではないかと考える。

質問

福祉事務所としては支援の額が妥当かどうか、扶養義務を果たしているかどうか行政の立場で、責任をもって判断しなければならなくなります。そんな判断ができるのか。

答弁

扶養義務の程度については、国の通知の中でも、「社会通念上それらのもの(扶養義務者)にふさわしいと認められる程度の生活を損なわない程度」として、抽象的な尺度が示されており、現在の運用では、家庭裁判所の審判例により判断することになっている。先ほども述べたとおり、現段階では、国から新たな実施基準が示されていないため、扶養義務者からの支援の額が妥当かどうか、また、扶養義務を果たしているかどうかの判断ができるのかといった質問には応えることはできない。

質問

親族に、扶養が困難であることの証明書義務を課すことは、結局、保護申請をあきらめさせることにつながり、北九州市であった「おにぎり食べたい」と書き残して、餓死した事件のような状況を生み出すことにつながるおそれがあると考えるが、どうか。答弁願います。

答弁

親族にどの程度、また、如何に、「証明義務を課す」のか、また、課さないのか、いまだ明らかになっていないので答えられないが、生活保護を必要とする人が申請できないようなことは、決してあってはならないと考えている。

「生活保護費でパチンコしたり、酒を飲んでいる」こんな批判の声をよく聞きます。

生活保護費の使い方は、本人の自由です。ただ、どういう生き方をするかの違いだと思いますが、特にひとり暮らしの場合は、家でテレビを見ていると電気代がかさむし、1人でいるのがさびしいなど、孤独な人が多いと感じるところです。本来なら、ケースワーカーが、話し相手になる余裕を持って担当することが望まれるところです。ケースワーカー1人あたり、30世帯ぐらいを担当することが望まれるという声もあります。しかし、そこまでできなくても、このような方たちには、生活費の保障だけでなく、市民団体やボランティアなどにも働きかけて、人としてのつながり、知り合いをつくる仕掛作りが求められると思います。ぜひ検討してほしいと要望しておきます。

深刻なのは、アルコール依存症、ギャンブル依存症の人です。依存症は病気であり、自分の力だけでは行動をコントロールできない状態にあります。

本来、そういう場合は、治療の促進、精神科医療との連携、精神保健福祉サービスが必要なのです。

質問

行動を抑制できないサイクルにはまり込んで、抜け出せない状態の人には、ワーカーを始め専門職による酒やギャンブルをやめる援助や生活支援の強化が必要です。職員配置は十分になされているのでしょうか。尼崎市での取り組みの実態をお聞かせください。

答弁

依存症の治療には長期的かつ継続的な支援が必要なため、ケースワーカーが保健所の精神保健福祉相談員と連携するなどして、精神科医による専門的な受診を促すほか、アルコール依存症に関しては、必要に応じて断酒界などの自助グループへの参加を進めており、参加する場合には、交通費の支給を行っている。

 また、依存症の方は、病気によるトラブルが原因で、どうしても、地域で孤立しがちになるため、ケースワーカーをはじめ、職員による支援が重要だと認識しており、今後一層の保健福祉の連携・充実に努めていきたいと考えている。

また、生活保護受給者が増えているのは、基準が甘くなってきたからではないか。もっと厳しくすべきとの声も聞きます。

本当にそうでしょうか。本来なら、生活保護が適用されて当たり前の人なのに、申請させようとせず、帰らせるといった状況が尼崎市にもありました。

私の経験ですが、商売がうまくいかず、高利の借金で、食べるにも事欠き、餓死寸前のところを知人に発見され、緊急入院。回復した後、福祉事務所から、「65歳以下なので、保護は打ち切る。仕事を探して働きなさい」といわれている、と、助けた知人から相談がありました。「また、餓死させようとするのか。仕事がみつかり、自立できるようになるまで、保護すべき」と話し継続となりました。

「失業し、家賃を滞納している。貯金もそこをついた。一生懸命仕事を探しているが、見つからない。家の明け渡しをいわれているが、保護課からは、65歳以下だから保護できないといわれた」という市民もいました。面接の若い職員さんは、同行した私にも同じ説明をしました。わたしは、「なぜ、65歳以下なら保護できないのか、その理由をききたい。上司に説明にきてほしいと伝えてほしい」といったところ、若い職員は上司に相談の上、申請書を持ってきました。

住宅扶助費よりかなり高額な家賃の家に住んでいる人が「家賃の安い家に引越ししてから相談に来るようにといわれた。お金がないから引越しはできない。こまっている」といった相談もありました。

これらは、すべて、いわゆる違法な「水際作戦」です。違法だからこそ、福祉事務所の幹部職員は、私の指摘を受け入れ、対応を変えざるを得なかったのです。しかし、その「水際作戦」で、多くの生活困窮者が泣かされてきたものと思います。

2006年度、日本弁護士会が行った全国一斉電話相談では、福祉事務所にいったものの、生活保護の利用に至っていないケースのうち、66%が違法の可能性があるとの結果だったということです。尼崎市だけでなく、全国的に水際作戦が行われていたのです。

高齢化、低年金、失業、低賃金、など、貧困が広がるなか、全国的な市民運動などの強まりで、水際作戦が是正され、行政が基準を守るようになってきたのです。基準が甘くなってきたわけではありません。

その結果、2007年度から2011年度の状況を見ると、保護利用者は154万3200人から210万8000人と1.36倍に増えていますが、その一方で、ホームレス数は1万6018人から9576人と40%減少、自殺者も3万3093人から3万651人にと7.4%ですが減少しています。

質問

このようなに、生活保護制度が「最後のセーフティネット」として、「人の命を支える」という大事な役割を果たしていることを示しており、基準を厳しくすることは、ホームレスや自殺者、餓死者を増やすことにつながるものと思いますが、福祉事務所はどう考えますか。

答弁

生活保護の申請権の侵害などの違法行為は、指摘されたような深刻な事態につながるおそれがあるものと考え、適切な対応を行っているところである。 いずれにしても、生活保護法が、憲法25条に規定する生存権の理念に基づいて定められたものであることを十分に踏まえた上で、生活保護制度を運用することが大事であると考えている。

8月10日に成立した消費税増税法は、当初、さんざん、社会保障の安定財源にするためといわれてきました。しかも、増税法が成立した後も、野田首相は「国民には負担をかけるが、全額社会保障に使う」と公言しました。

消費税増税法とセットになった「社会保障制度改革推進法」の附則に、生活保護の見直しが盛りこまれました。そこには、不正受給への厳格な対応、正当な理由なく就労しない場合の厳格な対処、給付水準の適正化という規定が盛り込まれました。

その上、政府は、8月17日、2013年度予算の概算要求基準を閣議決定しました。

その概算要求基準は、

要するに、

①「歳出の大枠71兆円」を遵守するために、これまで聖域とされてきた社会保障分野の支出を削る、

②そうは言っても、高齢化に伴う自然増(8、400億円)は止めようがないので、その分も含めて生活保護を見直すことで削る、というものです。

削る場合の方法としては、生活保護基準額を下げるか、あるいは、扶養や就労などの状況を厳しくするなど、受給できるハードルを高くすることが考えられます。

生活保護基準の引き下げは、生活保護利用者やあらたに生活保護を申請しようとする人たちだけの問題ではありません。

質問

生活保護基準の引き下げは、税制や社会保障負担や市の低所得者対策など、どういう事業に連動して、市民負担を引き上げますか。

答弁

生活保護受給者については、健康で、文化的な最低限度の生活を保障するセーフティネットとしての生活保護制度による支援のほか、本市では、本人はもとより、その家族構成に応じた支援を行っている。そのような支援策の具体的なものとしては、生活保護受給者が養育する児童にかかる保育料を無料とすることや児童ホームの利用料の免助、就学に係る学用品費や給食費の支給、さらには市立高等学校の授業料の免助、年金等の社会保険料の免徐、市営住宅に係る家賃の減免などがある。

生活保護が、受給できなくなった場合、これらの支援策については、制度の対象外となることや一定の負担が生じるなどの影響を受けることになる。

 

生活保護費の75%は国負担です。各種の施策の中で、国の負担が最も高いのが、生活保護制度だと思います。その生活保護費は、100%といっても差し支えないほど、市内消費に回ります。2011年度決算をみると、生活保護費に関する国庫負担金は約242億円、地方交付税の生活保護に関する基準財政需要額が、約74億円、合わせて、316億円が、実質的な国の負担となっています。その半額を生活扶助とすれば、158億円です。たとえば生活扶助費を1割削減するとすれば、単純に、16億円の影響が出ます。それに、生活保護の対象から外れる世帯、低所得者施策の対象から外れる世帯が出ることになり、それらに対する国の負担額も削減されることになります。

 

生活保護基準の引き下げは、市内に回るお金の総額が、削減されることになり、市内経済にも悪影響が出るのではないかと思いますが、答弁願います。

答弁

生活保護基準の引下げがなされるようなことがあった場合、市内経済に悪影響を及ぼすかどうか、明確には判断できない。

 

次に市財政とのかかわりです。

生活保護費など扶助費が増加し、その上、税収が増えないために、市の財政が厳しいと説明されてきました。

私は、10年前の、2002年9月議会で、生活保護費が本当に財政難の原因なのかと疑問を持ち、生活保護費の負担額と地方交付税との関係について、初めて質問しました。大変単純な発想ですが、市税収入が落ちれば地方交付税が増える。生活保護費が増えれば、これも地方交付税を引き上げる要因になる。地方交付税の役割は、財政力の異なる自治体間の財政調整機能と財政力の弱い自治体に対する財源保障機能を果たすものと何度も聞いてきたのに、との思いからです。国の基準どおり実施しているのに、市財政悪化の要因になるのは、おかしいと思い、市が負担している25%の額と基準財政需要額との比較表を出してもらいました。その当時、10億円程度の不足があり、基準財政需要額の不足を是正するよう国に求めるべきと質問しました。当局は、私の主張を認め、乖離をなくすように国に求める努力をしているとお聞きしています。

その後の乖離の実態も検証したいと思い、あらためて、2004年度から2011年度までの8年間の25%の一般財源負担額とそれに対する基準財政需要額の決算額を調べました。基準財政需要額の不足額は、2004年度8.18億円、05年度9.03億円、06年度9.43億円、そして、07年度11.80億円、08年度9.30億円、09年度11.13億円、10年度11.94億円、と毎年度不足し、2011年度は縮まりましたが、3.74億円の不足です。この8年間の不足総額は、74億5500万円です。尼崎市にとっては、決して、容認できる額ではありません。

 

8月24日、25日に、第4回生活保護問題議員研修会に参加し、武田公子金沢大学教授による生活保護費と地方財政の分科会に出席しました。その際の資料によると2000年度から2009年度の全国の自治体の生活保護費一般財源負担額の合計額と基準財政需要額の合計額は、国全体で見ると、ほぼ同額、ほとんど差がないグラフが示されていました。武田教授は、大阪市のように保護率が高い都市を除いては、生活保護の増加が自治体財政を圧迫するというのは、正しくないと説明されました。

先に述べた尼崎市のここ8年間を見ても、生活保護の一般財源負担額は、毎年、増加しています。しかし、基準財政需要額が一般財源負担額の増加に比例して増加しているわけではありません。10年前は、今よりも保護率は低かったのですが、一般財源負担額に比べて、基準財政需要額不足は、当時も10億円程度ありました。

 

質問

生活保護の増加が市財政を圧迫しているというのは、正しくないと考えます。問題は、基準財政需要額の不足にあると思いますがいかがですか。

答弁

生活保護費に係る基準財政需要額算定結果と決算額の乖離については、これまでおおむね10億円規模の乖離が生じていたので、国に対して、市の実態を需要額に反映するよう、要望してきた。その結果、平成23年度においては、乖離が大幅に改善したところである。

しかし、この乖離が改善してもなお、本市の財政状況は、逼迫した状況となっているが、こうした要因はひとつではなく、扶助費の増のほか、市税収入や収益事業収入の落ち込み、過去のまちづくりにおいて発行した多額の市債等の償還など、さまざまな要素が重なり合って結果であると認識している。

 

研修会で、私は、「全国的に、基準財政需要額と一般財源負担額とがほぼ同額ということは、生活保護費は、100%国負担にしても、厚生労働省の予算になるか、総務省の予算になるかの違いはあるが、国の負担額そのものが、増えるわけではないとの論拠になると思うが」と質問したところ、「論拠になる」といわれました。

質問

全国的にみた場合、一般財源負担額と基準財政需要額にほとんど差がないことを考えると、生活保護制度は、100%国庫負担とするよう求める根拠になります。この根拠も踏まえて、積極的に、100%国負担を求めるべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。

答弁

生活保護制度のような、国の責務において全国一律の取り扱いがなされ、各団体において裁量の働く余地のない事業については、その全額が国庫負担で実施されるのが本来あるべきすがたであると考えている。

こうしたことから、生活保護制度については、全国市長会などを通じて、この旨、国へ要望を行っているところである。

なお、仮に生活保護制度が全額国庫負担に移行すると、地方財政計画全体が大きく組み替えられることとなるが、このことが、本市の財政運営に影響しないよう、あわせて配慮を求める必要があると考えている。

質問

また、市の幹部職員が、「職員の人件費削減分が、生活保護費に消えていく」といっているのを直接聴いたことがあり、ショックを受けました。市職員にも地方交付税との関係を正しく説明し、理解を得る必要があると考えますが、いかがですか。

答弁

職員に対する地方交付税を含めた財政制度全般に係る理解を深めるため、これまでも情報発信に努めてきたところである。

具体的には、平成22年度に、「本市の財政について」と題して、地方財政計画・地方交付税を含めた内容をまとめ、全6回にわたって、職員へ向けて周知を図っている。

また、今年度においても、先般、「尼崎市における地方交付税の現状と課題」という内容で資料をまとめ、職員向けに周知を図るとともに、試験や質問を募集しながら、理解の促進に努めているところである。

地方財政計画や地方交付税は、非常に複雑な制度であり、何回ではございますが、今後とも機会をとらえて、できるだけ分かりやすく、正確に情報を発信し、職員の理解が一層深まるよう、取り組んでまいりたいと考えている。

 

また、必死になって、働かなくても、生活保護になったら食べていける。生活保護は、働く意欲をなくしてしまう。という声もよく聞きます。働けるのに、働かない人を作るのが生活保護だといっているわけです。
生活保護法第1条には、「この法律は、日本国憲法第25条 に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」とあります。

質問

先に述べたような状態があるとすれば、福祉事務所が、「自立を助長することにある」と規定している生活保護法の目的を定めた第1条どおりの取組を十分行っていないことを示しているといえるのではないでしょうか。

答弁

福祉事務所では、平成14年度から就労促進相談員を配置し、基本的な身だしなみから生活習慣の確立のための指導、履歴書の書き方から面接の受け方にいたるまでの助言、また、ハローワークへの動向訪問など、状況に応じてきめ細かく就労活動を支援してきた。

しかし、長引く経済・雇用状況の悪化などを背景として、就労活動を行っても、なかなか就職に結びつかないため、働く意欲の減退が懸念されている。

こうしたことから、平成23年度から「就労意欲喚起等支援事業」を、そして平成24年度からは、ボランティア活動等を通じて、自立に向けての意欲を高める「ボランティア・職業体験事業」を開始するなど、積極的に自立の助長に向けた取り組みを進めているところである。

 

2012年に入ってから、障害のある人と、その方を支えている2人暮らしの世帯で、支えている方が生活苦で亡くなられた後、支えられている方が餓死するなどの大変痛ましい事件が相次ぎました。生活保護の利用率、捕捉率の低さが影響していると考えられます。

3度も福祉事務所に行っているのに、追い返されていたことがわかっています。

生活保護世帯が増えたと大問題にされていますが、人口でみた場合の2010年の保護利用率はイギリス9.27%、ドイツ9.7%、フランス5.7%、に対して、日本は1.6%と、きわめて低いのです。保護率の高い国は、貧しい人の割合が高いのではなく、人権を守る制度として、利用しやすい制度になっているようです。
国や自治体の財政が厳しいといっても、日本全体が貧しいわけではなく、税制や社会保障制度による所得の再配分機能が十分に果たせない仕組になっているのが根本問題です。

所得の再配分機能を高めて、社会保障に必要な財源を確保し、一人ひとりの人間としての尊厳を尊重する社会にすることこそが求められています。

 大資本中心の経済対策から中小零細事業者も1人親方も支援され、地域内循環を高める経済政策に力を入れてこそ真に豊かで住みやすい、地域をつくるものと思います。

 力の弱いものを切り捨てる社会は、真に豊かな社会ではないと述べて、私のすべての質問を終わります。