公共施設の最適化に向けた取組について(素案策定の基本的な考え方) 尼崎市

1 最適化を目指す背景

「尼崎市の公共施設の現状と課題」(以下「現状と課題」とする。)で見てきたとおり、尼崎市の公共施設はその多くが老朽化等の問題を抱えており、今後は耐震性の確保や、高齢化の進行に対応した仕様(ユニバーサルデザイン等)への転換のほか、時代のニーズに対応した機能向上等を図るべく、施設の建替え等を進めていく必要がある。
一方、同じく「現状と課題」にあるように、尼崎市の依然として非常に厳しい財政状況では、今ある全ての施設について建替え等を行うことは困難であることに加え、人口の大幅な減少等により、十分に活用されているとは言いがたい施設もある。
また、施設のしゅん工当時と比較すると、行政が担うべき役割においても、以下のような様々な変化が見られるなか、施設を介して提供される行政サービス等の機能を、どのような体制で、どのような配置でもって市民に提供していくかについても、今日的な再検討を要する課題であると考える。

・高齢化の進行等に伴い、相談対応を含む窓口業務について、これまで以上に幅広く多岐にわたる分野で、より高い専門性を持って対応する必要があること。

・地域課題の解決に向けて、地域コミュニティの充実に向けた取組をさらに強力に推し進めていく必要があること。

・公共サービスの担い手として民間活力の導入が求められるようになるなかで、行政の役割が公共サービスの独占的な担い手から、コーディネーター的な役割へと変化してきていること、など。

こうした状況を踏まえて、今後、尼崎市が公共施設の最適化に向けた取組を進めていくうえでの基本的な考え方を、次のとおり示す。

2 最適化に向けた取組の考え方

(1)重視する考え方

今後、尼崎市は、市民共有の資産である公共施設について、面積等の基礎的な情報はもとより、維持管理・運営費用や利活用の状況、さらには物理的な劣化の程度や保全に関する情報等の一元的なマネジメントを行い、最適化に向けた取組を長期的に進めていく必要がある。

取組の検討を行うにあたっては、施設を戦略的な観点から保有・処分・活用・維持し、コストと便益の最適化を図る「ファシリティマネジメント」の考え方を踏まえ、経済的なコストで、適量かつ良好な品質の施設を提供することを目指し、以下の考え方に基づいて具体的な取組を整理する。

ア 総量の圧縮による維持管理コストの抑制と建替え等の財源の確保

各施設単独で建替え等を行うことは財政的に非常に難しいことから、複合化等により施設の総量を圧縮し、維持管理コストを抑制するとともに、廃止施設の跡地の売却により、存続する施設の建替え等の財源確保を図る。

イ 施設の機能・利便性の向上

時代のニーズに対応した、より使いやすい施設へのリニューアルの実施や環境負荷軽減への配慮、さらに、災害時の避難場所等として必要な耐震性等を備えるなど機能の向上を図る。
ウ 施設の長寿命化とライフサイクルコストの平準化・削減

今後、新たに建設する施設については、より長期間の使用に耐えうる構造を採用するとともに、計画的な保全の実施や維持管理コストの削減に努めるなど、施設の長寿命化とライフサイクルコストの平準化・削減を図る。

(2)行政サービス等の機能の再構築

行政サービス等の提供方法は、施設の規模や配置等を考えていくうえで関わりが深いことから、行政が担うべき役割の変化や財政的な制約等を踏まえるなかで、諸機能の再構築についても併せて検討を行うこととする。

(3)その他

ア 施設の設置場所の選定

建替え等を行うにあたっては、施設の特性や市域内・地区内での配置バランス等を考慮するなかで
、現所在地だけでなく、他の未利用地等も含め、場所の選定を行う。

イ 跡地利用の方向性

施設の集約化や廃止等による跡地利用については、現役世代の転入・定住を促進するため、基本的には優良な住宅等の形成を図るために活用する方向で検討する。

3 取組の方向性

前項2の長期的な取組の考え方を踏まえて、今後、喫緊の課題として取り組むべき事項について、以下のとおり方向性を定める。

(1)対象施設

「現状と課題」にあるように、尼崎市では、学校や市営住宅等に関する既存の計画のほか、市民利用施設を対象に作成した「公共施設見直しの方向性」(以下「方向性」とする。)

【主な取組事項】

① 地域振興センターは原則として地区会館との複合化を行い、施設の老朽化等の状況に応じた建替えにより、地域コミュニティの拠点機能の強化と施設の耐震化を図る。

② 行政サービスの窓口機能については、より効率的な窓口配置に向けた集約化と相談機能の充実を図る。
に基づき、一定の見直しを進めているところであり、引き続き、その取組を継続する必要がある。

一方、「方向性」のなかでは幾つかの課題が今後の取組事項として残されている。具体的には以下の3 点について、見直しに向けた検討、取組を引き続き進めるとしている。

①地域における協働のまちづくり等の拠点及び行政サービス提供の場の再構築について(支所のあり方等について)

②地区会館、地区公民館と支所との複合化等による集約について

③主に事業執行で利用する施設の見直しについて

以上を踏まえ、今回、建替え等の検討を行う施設は、3つの課題に関わる施設のうち、
今後10 年程度の間に建替え等が必要と考えられる施設を基本として、複合化の組み合わせや施設の移転先の確保等の要素も考慮し、選定することとする。

(2)地域における協働のまちづくり等の拠点及び行政サービス提供の場の再構築について

ア 協働のまちづくり等の拠点/地域振興センター

(ア)平成18年の再編の総括

・協働の取組について様々な課題はあるものの、新たな取組により地域の活動やネットワークが成長しつつある。
・現在の6地域振興センターの体制を基本に、各種の取組をさらに充実・活性化していくことが今後とも必要である。

(イ)取組の方向性

・地域における協働のまちづくり及びコミュニティの創造の拠点としての機能が今後も重要であると考えることから、引き続き、現行の拠点数を維持し、各種の取組をさらに充実・活性化していく。
・併せて、原則として地区会館との複合化を行い、災害時の一時避難場所等としても活用するべく、施設の耐震化を図る。

イ 保健及び福祉に関するサービス/地域保健担当・地域福祉担当等

(ア)平成18年の再編の総括

・乳幼児健診や予防接種などの保健業務を実施するうえで、建物の構造面から当該業務の安全・安心な実施に課題を抱えている。
・福祉事務所については、長引く経済の低迷、高齢化の進行等による被保護者数の大幅な増加により、年々組織規模が拡大することとなり、組織の肥大化による弊害が生じてきている。また、本庁舎内での適切な事務スペースの確保が難しくなるなど、1所体制が限界に来ている状況となっている。
・さらに、1所化により福祉事務所と各地区の地域保健、地域福祉等とが連携、調整して業務を進めていく上での課題も生じている。

(イ)取組の方向性

・大幅な人口減少や財政的な制約などの課題を抱えるなかで、保健業務を安全・安心に実施するための課題に対応するなど、必要な利便性等を備えた施設を早急に整備していくためには、より効率的な窓口配置に向けた集約化を行う必要がある。
・一方、福祉事務所に係る課題を踏まえると、各組織ができるだけ一体的に、十分な連携のもとで、市民に保健福祉のサービスをワンストップで提供し、相談、手続を完結できるよう、相談窓口機能を充実化することが望ましい。
・以上を踏まえ、現行6か所の地域保健担当及び地域福祉担当の集約化を行うとともに、集約先への相談窓口の設置と、専門性を持った現業機能の充実化を併せて実施する。

ウ その他行政サービス/サービスセンター・証明コーナー

(ア)平成18年の再編の総括

・窓口ごとの取扱業務に違いがあり、利用する市民にとって分かりにくくなっている。
・各種証明・届出については全体の処理件数が減少するなかで、特に証明コーナーの処理件数が当初の見込みより大幅に減少している。

(イ)取組の方向性

・より効率的な窓口配置と、本庁以外の窓口の取扱業務を統一するべく、現行5か所の証明コーナーのあり方を見直す。

エ その他
取組を進めていくうえで考えられる課題については、対応の方向性を検討し、今後策定する素案においてその内容を提示する。

(3)地区会館等の各地区にある施設の集約及び建替え等について

ア 各地区にある施設のうち、公民館については、“あまがさき”行財政構造改革推進プランの平成22年度の改革改善項目として、「6地区公民館に人員・財源を集中し、機能の強化を図ることにより社会教育の発展を目指すとともに、16分館については利用者の活動場所の確保に努めるなかで、順次、地域に移管等を行い廃止する」という取組を進めているところである。

イ 6地区会館については、今後も地域における身近な活動の場が必要と考えられることに加え、労働福祉会館・労働センターが廃止することとなった場合の代替施設確保の観点も踏まえると、地区公民館とともに引き続き存続するなかで、両施設の今後の利用状況の見極め等を行う必要がある。

ウ そうしたなか、老朽化の進行や耐震性の問題を抱えている施設については、各施設の状況に応じて建替え等を実施する。ただし、各施設単独で建替え等を行うことは財政的に非常に難しいことから、窓口機能の集約等の内容も踏まえるなかで、地域振興センターとの複合化により施設の集約を行い、廃止施設の跡地の売却により、存続する施設の建替え財源の確保を図る。

(補足)貸館機能を有するその他の施設について

①地区会館等と同様に貸館機能を有する施設のうち、労働福祉会館・労働センターについては、「方向性」において、「(平成21年度施策評価委員会の)提言の内容(廃止)も踏まえるなか、見直しに向けた検討を進める。」としており、施設のあり方についての利用者説明会等を実施してきた。今後は、廃止の方向で取組を進めることから、施設廃止後のホール機能の代替措置等について検討を行い、今後策定する素案においてその内容を提示する。

②同じく、総合センターについては、各地域における地区施設の見直しや、「方向性」に基づく管理運営面の見直しの取組を今後も進めていく。

(4)主に市の業務で利用する庁舎の建替え等について

老朽化等の問題を抱える施設については、速やかに市内部での検討・調整を行い、移転、建替え等に向けた事務を進めることとする。

参考/公共施設見直しの取組状況等(「公共施設の現状と課題」29 ページより)建物延床面積
(㎡)

学校・幼稚園 645,836.40
市営住宅   716,421.59
保育所    16,945.81
貸館機能を有する主な施設
(労働福祉会館) 5,557.45
(労働センター) 1,707.36
(地区会館)   9,025.39
(地区公民館)  11,109.13
(女性センター)  2,048.90
(青少年センター) 2,137.36

その他    (公民館分館) 5,673.53

(総合センター) 7,641.79
(地方卸売市場) 46,716.33
(公園・子ども広場) 28,836.32
(自転車駐車場・管理事務所) 20,704.66
(地区体育館) 12,607.75
(阪神尼崎駅前駐車場) 10,929.82
(その他) 67,310.97

小計 1,611,210.56

(市民利用施設)
○施策評価委員会の提言で個別に取り上げた施設(労働福祉会館、労働センター、地区会館、地区公民館、公民館分館、総合センター)は、引き続き、提言の内容を踏まえた検討、取組を進める。公民館分館はプランに掲げる取組を進める。

○それ以外の施設については、①設置目的等が薄れた施設の廃止や施設数・場所の見直しができないか=「総量縮小」、②管理運営方法の見直しができないか&③さらなる有効活用等に係る見直しができないか=「効率的活用」という視点で見直しを検討。
⇒「公共施設見直しの 方向性」をとりまとめ。
※「公共施設見直しの方向性」
作成時の検討対象から除外。

<方向性内で今後検討、取組を進めるとしている事項>

○地域における協働のまちづくり等の拠点及び行政サービス提供の場の再構築を検討。(支所のあり方等)

○主に事業執行で利用する施設の見直しを検討。
(労働福祉会館・労働センター)所管において、廃止の方向で利用者等と協議を進めている。
(その他の市民利用施設)見直しの方向性に基づく取組(実施済みを含む)

(例)
公民館分館/地域に移管等を行い廃止
総合センター/地区施設や管理運営面の見直し
老人福祉工場や青少年センター内こども科学ホールなど/廃止や場所の見直し等
園田東会館や共同利用施設など/管理運営面での 見直し
女性・勤労婦人センター、総合老人福祉センター、視聴覚センター/日曜日の開館等
地域研究史料館など/利用者層の拡大等
青少年いこいの家など/使用料の徴収
自転車駐車場/指定管理者制度、一括管理の導入
こども広場/見直しの取組総括と進め方の具体化

上記のほか、駐車場の有料化等公有財産の有効活 用の取組、老朽化等により建替えや大規模改修が 必要となった場合の存廃判断など。

(小中学校)
○学校適正規模・適正配置推進事業の取組を進めている。

(高等学校)
○プランに掲げる「市立全日制高等学校の見直し」、「市立定時制高等学校の見直し」に取り組んでいる。

(幼稚園)
○「尼崎市立幼稚園教育振興プログラム(素案)」を定め市民への説明会等を進めている。

(保育所)保育環境改善・民間移管計画の取組を進めている。
<方向性内で今後検討、取組を進めるとしている事項>
地区会館、地区公民館と支所との一元化、集約による館数削減を検討。

(市営住宅)住宅マスタープランの改訂、市営住宅長寿命化計画(住宅マスタープラン内の個別計画)の策定を行い、取組を進めている。

(特別支援学校)
※市内移転が課題となっている。