公営企業審議会答申に対する意見

2012年7月6日 田村征雄(日本共産党尼崎市会議員)

市バス事業の担い手のあり方を諮問され、公営審として「完全民営化方式が望ましい」との答申をまとめようとしています。

私、田村は、このまとめに対して、次のように意見を述べます。

1.まず審議会の議論として、民営化した場合において、極端に赤字となった路線については、コミュニティバスやデマンドバスの導入などの議論がありましたが、その場合は、総合交通政策のもとでの対応であり、それは公営審の課題ではない、企画財政局の課題だとの発言がありました。

実は、今のメンバーによる公営審の、前に設置された公営審の答申では、総合交通政策の策定は急務と位置づけていましたが、当局が策定しようとしなかったことは責めを負うべきです。

総合交通政策の策定がなされないまま、「市バス事業の担い手」をテーマにした公営審のもたれ方には、問題があったと指摘します。

2.次に、私以外の委員からも発言があったように、市民の立場からすれば、市バスは直営で運営されるのが望ましいと考えます。

乗客が増え続けるときの経営はしやすいでしょう。

しかし、自家用自動車の普及と市の人口減少などが要因で、乗客が減り続けたときのバス事業の経営は、交通局トップが経営見通しの判断を誤らないことが必要であり、交通局、市長部局の幹部職員ともども必死の経営改革を行なうことが必要でした。

現実は、多少の経営改善策を実施したものの、経営悪化をくい止めるまでには至らず、逆に、敬老パスの有料化の際には、重大な経営判断の誤りがありました。

当局がバス事業に対する経営責任を果たそうとしなかったことを指摘します。

また「完全民営化」により、すべてがうまくいくかのような論調も聞こえましたが、答申で「路線の維持に対する公的負担の基準について、整理すること」と記述された点については、結局、赤字路線に対して、市の補助金を投入することを前提にしているものです。

市の負担の基準によっては、つまり、ある路線に対して、負担の基準では補助金を投入できないと市が判断すれば、路線切り捨てになることが考えられます。

3.次に、「完全民営化」を実施すれば、交通局の廃止に伴い技術職員100名を含む120数名の職員の雇用、処遇問題が発生するが、市長部局で全員を受け入れる状況にはない、との答弁がありました。

また、市の政策で設立運営されてきた尼崎交通事業振興㈱の会社の清算等により、70数人の運転手を含む100数名の雇用問題が発生します。

どちらも、運転手として採用してきた経過を踏まえると、本来なら、公営審にかける前に、例えば、交通局の市バス全体の運営能力、ノウハウと人材を交通振興㈱に移行し、市民の足とサービスを守り、かつ交通局と交通振興㈱あわせて、200人近い運転手の雇用も  守る方策を検討すべきでした。

これは、それぞれの職員らの合意にもとづいて、徹底した検証を行うべきであったと指摘します。そういう庁内検討もなく、いきなり公営審で、担い手の一つとして議論の対象にされたものの、「第三セクターはつくるべきでない」の一言で、退けたのは問題があると指摘します。

4.「完全民営化」により、バス事業を担う民間事業者は、公共交通の一翼を担うとはいえ、利潤の追求と株主配当をだすことが第一の使命であり、尼崎市のように緻密なバスネットワークの中で、「赤字路線が切り捨てられないか」との市民の不安はぬぐえないことを指摘します。

5.答申の留意すべき事項として

「公共性確保に向けた取組みについて」として

「民営化の移行に際し、バス交通サービス水準の維持、確保に向け、事業者と協議を行い、協定を締結すること」とされているが、協定の内容も有効期間も不明確であり、市民と市に不利な協定をバス事業者がこぞって求めることも考えられることを指摘します。

6.特に、職員の処遇等については

「交通局に在籍する職員の処遇については、多様な選択肢を用意するなど、職員の希望に添えるよう責任をもって対応すること、また、尼崎交通事業振興株式会社のあり方については、会社の意思を尊重し設立の経緯を踏まえ、市として責任をもって対応すべきであること」とされました。

職員の処遇等について、私を含めて重要な課題として相当な意見がありました。

これらの問題については、市の責任で対応するのは当然でありますが、この責任を果たすためにどれだけの費用がかるのかは今後の課題とされています。

7.私は、バス事業の担い手を「間接営型方式で」と提案してきました。

これは、市が出資し市の一定の関与を行うもとで、バスネットワークを守り、バス事業への市民の意見、議会の意見を反映できるメリットがあることを指摘します。

また、運転業務を希望して採用された交通局の技術職員の運転技術を生かすこと、また交通事業振興㈱については市に株主責任があり、道義的責任があるとの当局の認識が示されましたが、そうであるなら交通事業振興㈱を育成し、経営能力のある人材を配置してバス事業の担い手とすれば、交通局職員の処遇問題も振興㈱従業員の雇用問題も前向きに解決できる確かな方策であることを指摘いたします。

   以上、市民の足をまもり、バスネットワークを守り、雇用を守る立場から、「完全民営化を望ましい」とする、この答申には同意できないことを意見とします。

以上