「こんにちは日本共産党議員団です!」第144号 公営審答申に対する日本共産党市議団の見解

日本共産党尼崎市会議員団ニュース第144号(2012年9月7日)

「市バスは完全民営化が望ましい」との公営審答申に対する日本共産党市議団の見解

2012年9月 日本共産党市議会議員団

「こんにちは日本共産党議員団です!」第143号(この記事の画像PDF)

「市バス事業の担い手のあり方について」を諮問ざれた公営企業審議会(以下、公営審)は、11月の第一回の公営審で、会長から「現行のバスネットワークとサービス水準は維持することを前提に」と確認の発言があり、議論が始まりました。審議の結果、公営審の多数意見として「完全民営化方式が望ましい」と答申しました。この答申に対する日本共産党市議団の見解は以下の通りです。

1.市バス問題の経過と公営審に至る問題点

(1) 今回の公営審設置の経過

市バス事業のあり方は、地方公営企業法にもとづき、公営審において議論されるのが基本ですが、前回の公営審の前後で、尼崎市は三つの会議体を設置して検討してきた経過があります。

2008年3月「市バス事業のあり方懇話会」報告書

2009年6月「尼崎市公営企業審議会」答申
→改善型地方公営企業として「直営」のもと、経営改善を図ると提起。課題として、市内部で検討している「高齢者特別乗車証制度」の見直し(敬老パスの有料化)の影響等を危惧しつつ、総合交通政策の策定は急務と提起。

2010年7月「尼崎市地域交通会議」答申
→市バスの現行の路線を、社会的重要度、採算性の2点で評価し4分類に区分。「社会的重要度、採算性ともに低い路線は、原則廃止」と提起。
そのため当該地域の住民が、路線の存続を求める陳情を議会に提出。

2011年8月「尼崎市バス交通検討会議」報告
副市長、局長級10人による庁内会議体→「持続可能なバス交通サービスの方向性」として、経営形態等について検討。

2012年7月「尼崎市公営企業審議会」(今回の公営審)
「バス交通事業の担い手のあり方について」を諮問、「完全民営化」を答申。

(2) 今回の公営審答申に至る問題点

① 問われた市と交通局の経営能力

「市バス事業の担い手のあり方について」が諮問された背景に、交通局会計の急速な悪化がありますが、その要因には当局の経営判断の問題がありました。自家用自動車の普及と人口減少により乗客数が減り続けているもとで、市民とともに「市バスを積極的に利用しましょう」という市役所あげての取組みがどうであったのか検証が必要ですが、公営審での議論は不十分でした。交通局はこれまでいくつかの経営改善策を実施したものの、経営悪化をくい止めるまでには至らず、逆に、敬老パスの有料化の際には、重大な経営判断の誤りがありました。有料化による乗客減が経営に影響するのではないかとの議会からの指摘を無視し、市長部局、交通局が有料化を推進しました。結果、乗客減は見込みを上廻り、経営を悪化させ経営健全化団体への転落の危機をもたらし、一般会計から経営支援金を投入せざるを得ない事態をつくりだしました。

② 総合交通政策を策定せずに公営審を設置

前回の公営審答申が急務と提起した「総合交通政策の策定」をしないまま、公営審が設置されたことは問題です。例えば、今回の公営審での議論として、民営化した場合において、極端に赤字となった路線については、コミュニティバスやデマンドバスを導入するなどの議論がありましたが、その場合は、「総合交通政策のもとでの対応であり、公営審の課題ではない、企画財政局の課題だ」との会長発言がありました。総合交通政策が策定されていないために、想定される赤字路線対策など公営審で議論されてしかるべき課題が議論されないまま、「完全民営化ありき」の答申となりました。総合交通政策の策定を怠ったまま、「市バス事業の担い手」を諮問するやり方に問題があったことを示しています。

③ 尼崎交通事業振興(株)への対応については事前の検討が不十分

「バス事業の担い手」を公営審で議論する前に、交通局が出資して設立し、現在は市バス8路線の運転業務の受委託関係にある「尼崎交通事業振興(株)」をどうするのかについて、本来、市長と自動車運送事業管理者とで、「バス事業の担い手」とする場合には、どのように条件整備が必要か、との視点での検討があってしかるべきでした。「尼崎バス交通検討会議」の報告では、「尼崎交通事業振興(株)について、担い手としてふさわしい体制を整えるには、これまで以上の人的、財政的なバックアップが必要とし、設立経緯を踏まえ、会社の意思を尊重する中で、協議していくこととなる。」と指摘していました。ところが、市長部局、交通局と尼崎交通事業振興(株)とで、どのような協議をしたのか、について不明であり、公営審には報告がありませんでした。

例えば、協議の結果、尼崎市交通事業振興(株)を担い手の一つとして、検討の対象にできるという一定の方向が出れば、公営審の諮問内容も違っていたはずです。しかし、尼崎交通事業振興(株)を担い手の対象とすることについて、市の検討は不十分でした。

2.「完全民営化が望ましいとする答申」の問題点

(1) 完全民営化で、市民のバス交通サービスが悪化しないか?

市バス事業は市直営だからこそ、半径300m以内にバス停があり、28路線という緻密なバスネットワークにより市民の足をまもり、バス交通サービスを維持できたものと考えます。一方、民間のバス事業者は、公共交通の一翼を担うとはいえ、利潤の追求と株主配当をだすことが第一の使命です。市バスを完全民営化すれば、「赤字路線が切り捨てられないか」という市民の不安の声があがるのは当然です。

このような市民の不安に対して、答申は「公共性確保に向けた取組みについて」として、「民営化の移行に際し、バス交通サービス水準の維持、確保に向け、事業者と協議を行い、協定を締結すること」としています。

①市とバス事業者の協定の内容は不明確

バス交通サービス水準の維持、確保に向け、市が事業者と協定を締結するとしているものの、協定の内容も有効期間も不明確です。

他都市の例では、協定期間は2年ないし3年程度です。協定期間が過ぎれば、バス交通サービスは民間企業の意のままとなり、利益確保第一の経営姿勢から路線やサービス水準が悪化する可能性があります。

公営審では、協定に盛り込む事項については、議論がされませんでした。

②市はバス事業者にいくらまで補助金を出すのか

答申で「路線の維持に対する公的負担の基準について、整理すること」と記述された点については、結局、民営化しても赤字路線に対しては市が補助金を投入することを意味しており、市が補助金を投入する基準を明らかにすることを求めています。

この考えでは、市が示した「負担の基準」によっては、つまり、ある路線に対して、市の負担の基準では補助金を一定額以上投入できないと市が判断すれば、民間バス事業者は、「それなら路線は維持できない、路線廃止します」という対応になることが考えられます。

公営審では、完全民営化すればすべてがうまくいくかのような議論がありました。しかし、補助金をいくらまで出すのか、バス事業者から想定超える要求が出た場合どうするのか、バス事業者に市がどこまで発言権をもてるのか不透明です。

③ 高齢者特別乗車証制度は存続されるのか

公営審では、高齢者特別乗車証制度を維持してほしいとの意見がありました。実際にこの制度がどういう形になるのかは、確定していません。阪神バスや阪急バスが担い手になった場合、現行の市内区間について、高齢者特別乗車証制度の対象とするのかどうかは議論がされていません。

④ バス事業者の選定にあたり、市はどのような条件を示すのか

バス事業者の選定にあたり、協定にもりこむ内容、協定の期間について、市の負担の基準、高齢者特別乗車証制度についてなど、市民の足と福祉をまもる条件をどのような内容にするのかは、これからの課題です。

(2) 交通局運転手、交通事業振興(株)運転手・職員の雇用を守れるのか

「完全民営化」を実施すれば、市交通局の廃止に伴い運転手(技術職員)100名を含む120数名の職員の雇用、処遇問題が発生します。公営審の質疑応答で、市長部局で全員を受け入れる状況にはない、との答弁がありました。

また、市の政策で設立運営されてきた尼崎交通事業振興(株)は会社の清算等で70数人の運転手を含む100数名の雇用問題が発生します。

答申では、「交通局に在籍する職員の処遇については、多様な選択肢を用意するなど、職員の希望に添えるよう責任をもって対応すること、また、尼崎交通事業振興株式会社のあり方については、会社の意思を尊重し設立の経緯を踏まえ、市として責任をもって対応すべきであること」と記載されました。この趣旨がどのように推移していくのか、議会としてのチェックが必要です。

3.民営化に向けた市の当面の取り組みについて

答申を受けた当局は、市バス事業の民営化計画を策定していくことになると思われます。当面、議会の特別委員会に民営化計画の素案を提示し、今年秋から冬にかけて、市民説明会とパブリックコメントの募集を実施していくものと思われます。

市当局は、議会や市民意見を踏まえて2012年度末(2013年3月末)には、民営化の方策を確定する考えです。

4.日本共産党市議団は、次のように考えます。

通勤、通学をはじめ買い物や通院など、すべての市民が健康で文化的な生活を営むためには、移動の権利が保障されなければなりません。

そのため、公共交通の要としてのバス交通ネットワーク、サービスのあり方などについて、市長はまず総合交通政策を策定すべきであります。

次に、日本共産党市議団は、公営審で「完全民営化」に反対し、バス事業の担い手を「間接営型方式で」と提案、尼崎交通事業振興(株)を担い手として検討するよう求めてきました。その場合、交通局の経営ノウハウなど人的な支援、財政面の支援は当然です。尼崎交通事業振興(株)を担い手とすれば
第一に、市が関与する仕組みを活かし、公共性を維持し、バスネットワークとサービスをまもる保障となります。
 第二に、バス事業に対する市民や議会の意見を反映できるメリットがあります。
 第三に、ノンステップ、アイドリング機能のある今の市バスをそのまま利用できる点も市民にとってのメリットの一つです。

つまり、市が関与する仕組みを維持していくことがバス事業と利用する市民にとって最大のメリットになると考えます。

また、市には、尼崎市交通事業振興(株)を設立してきた株主責任、道義的責任があります。

今の時期に公共団体が離職、失業の不安をつくることは問題があり、200人近い雇用問題に前向きに対応することが自治体の使命ではないかと考えます。